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災害時に企業が取るべき対応は?安否確認について社労士が解説

こんにちは。社会保険労務士の宮原です。

皆さまはBCPという言葉をご存知でしょうか。
BCPとは事業継続計画のことを指し、企業が自然災害や感染症蔓延、大規模火災やテロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておくものです。
我が国は災害大国といわれ、地震のみならず火山噴火や河川の氾濫といった、あらゆる自然災害のリスクを抱えています。そして2020年以降は新型コロナウイルスの蔓延が続き、企業は平常時の事業継続を考えるだけでは足りず、緊急時にいかに事業を継続させるか考えざるを得ない状況になっています。
「事業資産を守る」というと「モノ(設備や製品)」「カネ(経営資金)」といった有形資産が対象と考えられがちですが、もっとも重要な資産は、無形資産である「ヒト(従業員)」です。従業員の安全や安心が脅かされると、モノやカネがあっても企業は機能しません。
今回は、緊急時に従業員を守るための安否確認の方法について解説します。

安否確認の重要性

近年、我が国では集中豪雨による河川の氾濫や台風被害、猛暑といった過酷な自然災害が多発しています。
また、関東から九州の広い範囲で強い揺れと高波が発生するとされる南海トラフ地震、そして首都中枢機能への影響が懸念される首都直下型地震は、今後30年以内に発生する可能性が70%と予測されており、企業の存続は自然の猛威と隣り合わせで考える必要があります。

(出典)防災情報のページ - 内閣府


近年は通信手段が発達しており、緊急時の従業員の安否確認の手段は豊富にあるように感じます。しかし2011年に発生した東日本大震災では、その被害の大きさも相まって、多くの企業が従業員の安否確認に時間を要したことが分かっています。

(出典)東日本大震災に際しての企業の対応に関するレビュー〜経団連アンケート調査結果より〜 - 一般社団法人日本経済団体連合会


企業の事業継続を脅かす要因は、予測できるものとできないものがあります。自然災害や感染症蔓延のような予測できない緊急事態に対応するには、平常時から安否確認の体制を整備しておくことが重要です。
また、従業員とその家族にとって、企業が緊急時に状況を的確に把握し、対応してくれるという安心感は非常に大きなものです。安否確認の仕組みを確立しておくことは従業員の安心感につながり、平常時の企業経営においても助けとなるでしょう。

安否確認で企業が確認すること

自然災害などの有事に際して、企業は従業員に対して以下について確認することとなります。

  • 従業員・従業員の家族の状態
    • 怪我の有無・危機的状況にないか
  • 出社の可否
    • 事業所まで安全に到達できるか
  • 出社時の交通手段
    • 公共交通機関が止まるリスク、それによって帰宅困難者になるリスクはないか
  • 出社日の見込み
    • いつ頃事業所に出社できそうか
  • 自宅の状況
    • 自宅が居住可能な状態か・損壊状況はどの程度か
  • 現在の居場所
    • 避難所に避難している場合、その場所


安否確認の手段

経団連のレポートにもあったように、安否確認の手段はさまざまなものがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。


安否確認システムの導入について


このようにさまざまな安否確認の手段がありますが、そのなかでもとくに「安否確認システム」は安否確認に特化したシステムであることから、他の確認手段ではカバーできない機能を備えています。


気象庁の緊急地震速報や特別警報などの情報と連動し、自動で安否確認連絡を配信できる

自然災害が発生した際、安否確認の実施担当者も他の従業員と同様に、被災している可能性があります。事前に安否確認連絡の自動配信を設定しておくと、担当者が対応できないときも安心です。また、配信準備に時間を要することなく、瞬時に安否確認を開始できます。


未回答者を抽出し、再度通知できる

安否確認システムを利用すれば、安否の連絡が入っていない従業員を自動で抽出できます。また、決まったタイミングで未回答従業員にのみ再度通知できるため、担当者がその都度対応する必要がありません。


回答方法が簡易

事前に設定した質問に答える形式で回答するため、緊急時に何を報告すればよいのかわからない状況にあったとしても、従業員の負担を最小限に抑えて必要な情報を収集できます。


既存の人事労務管理システムと連携できる

安否確認システムのなかには、すでに企業に導入している人事労務管理システムと連携できるものもあります。
https://anpi.toyokumo.co.jp/case/valtes.html
人事労務管理システム上の従業員情報を安否確認システムに取り込むことで、従業員はそれぞれのシステムに情報を入力する手間が省けます。また、住所などの従業員情報に変更があった際も確実に安否確認システムの情報を更新できるため、従業員の負担を最小限にしながらも、いざというときに正確な情報を収集できます。

安否確認システムの選定ポイント

実際に安否確認システムの導入を検討する場合は、企業のニーズに即したシステムの選定が重要です。選定時のポイントは以下の5点となります。


ポイント1:自動配信・集計

素早い状況把握や担当者の負担軽減という観点から、状況に応じて自動で配信でき、回答も自動集計される機能の有無は、安否確認システム選定時の肝となるでしょう。


ポイント2:従業員の家族の安否確認

従業員と家族の間で利用できる掲示板機能をもつシステムもあります。災害発生の時間帯によっては、家族が離れた状態での被災も想定できるため、従業員にとっては非常に心強い機能です。


ポイント3:複数の管理者設定

回答の集約先となる管理者を複数設定できるシステムもあります。直属の上司だけでなく、危機管理部門やシステム管理部門の責任者も管理者に設定することで、タイムリーに必要な情報が共有できます。


ポイント4:感染症確認機能

自然災害だけでなく、感染症に関する情報を収集する機能をもったシステムもあります。また、情報収集だけでなく感染拡大時の注意喚起を一斉に送信するなど、情報共有も可能になります。


ポイント5:多言語化対応

外国人従業員を雇用している場合、多言語化対応が可能なシステムは非常に役立ちます。

安否確認システム導入時の注意点

安否確認システムは、導入すれば終わりではありません。「いざというときに使い物にならなかった」「うまく運用できなかった」では導入した意味がありませんので、平常時に準備を整えておくことが大切です。
 

注意点1:連絡手段を統一する

緊急事態が発生する直前まで社内の連絡手段として使用されていた電話やメールを、緊急事態発生後もそのまま使用し続けてしまうことがあります。普段から使い慣れている連絡手段に頼ってしまうのは自然なことですが、安否確認システム以外の方法で安否確認を実施すると、結果的に情報の行き違いや情報収集、集計に手間取ることとなります。
安否確認システムの発動後は、連絡手段を安否確認システムに統一することが必要です。
 

注意点2:研修と定期的な訓練の実施

安否確認のルールや安否確認システムの使い方について、確認する機会を設けましょう。
とくに訓練は定期的に実施し、実際に回答するなど平常時から使い慣れておくことが重要です。
 

注意点3:緊急時の参集体制を整えておく

安否確認を行う目的のひとつに、従業員が事業所に参集できる状況にあるかどうかの確認があります。しかし、従業員をむやみに出社させることで社内において二次災害が発生したり、帰宅困難者となってしまう可能性もあります。
緊急時に最低限必要な従業員が参集する体制を事前に検討しておくことも大切です。

おわりに

帝国データバンクが実施した「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年)」によると、事業が中断するリスクに備えて実施あるいは検討している内容として6年連続でトップとなっている項目が「従業員の安否確認手段の整備」です。

(出典)特別企画:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2022年) - 株式会社帝国データバンク

 
このデータからもわかるように、企業が有する有形資産(モノ・カネ・情報)はヒト(従業員)があってこそのものであり、いち早く事業を再開するためには従業員の安否確認が欠かせません。
また従業員自身も、安否確認をとおして企業と情報共有できることで安心感が生まれ、安全を確保しながら企業とともに事業再開に向けて動き出せます。
自然災害はいつ起こるかわかりません。「まだ大丈夫だろう」と考えずに、従業員と企業を守り事業継続力を強化する取り組みとして、安否確認手段について検討してみましょう。

筆者の顔アイコン

野嶋社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 宮原 麻衣子

2003年、メンタルヘルスの専門家である精神保健福祉士資格を取得し、精神科医療機関等で勤務。2015年に社会保険労務士登録、2017年に特定社会保険労務士となり、労働社会保険関係法に関する専門家として企業の労務管理のコンサルティング業務を担う。また精神保健福祉士養成の専門学校にて後進の育成に携わるほか、労務管理全般やストレスマネジメントに関する研修等において講師を務める。健康経営エキスパートアドバイザー。