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従業員のメンタルヘルスケアを考える ~企業が導入すべきサービスとは~

著作:SmartHR Plus 編集部

監修:野嶋社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 宮原 麻衣子


5月の大型連休後に「なんとなく体調が悪い」「仕事に集中できない」といった状態に陥る「五月病」の季節がやってきました。
社会人にとっても企業にとっても気がかりなこの時期ですが、昨今は過重なストレスによる自律神経失調症やうつ病といったメンタルヘルス問題が社会問題化しており、企業にもその影響が顕在化したことで、従業員のメンタルヘルスケアが注目されています。
今回は企業におけるメンタルヘルスケアの重要性、メンタルヘルスケアサービスを導入するポイントについて解説します。

メンタルヘルスケアとは

一般的にメンタルヘルスケアとは、身体的な健康と同様に精神的な健康を維持・改善するためのケアのことを指します。具体的には、過重なストレスや不安状態といったメンタルヘルス問題やうつ病などの疾患に対して、適切な支援や治療を受けることなどが含まれます。
企業におけるメンタルヘルスケアとは、従業員のメンタルヘルスの維持・向上を目的として、企業が取り組む各種の施策を指します。たとえば、ストレスチェックやカウンセリング、ストレスマネジメント研修、健康管理支援などがあります。
これらの取り組みは、従業員のメンタルヘルスの維持・向上を通じて企業の生産性の向上や離職率の低下につながるとされています。

企業におけるメンタルヘルスケアの重要性

近年、社会的な関心の高まり、労働環境の変化、法的規制の強化などさまざまな要因によって、企業が従業員のメンタルヘルスケアを重要視するようになってきました。

株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントが2022年11月に発表した調査によると、自分自身がwell-being(個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを意味する概念(厚生労働省))な状態であると感じる従業員は生産性が高く、クリエイティブな仕事ぶりで会社に貢献できます。そのため企業は、従業員のメンタルヘルスを良好にするために取り組むことが必要不可欠です。

ウェルビーイング偏差値と仕事のパフォーマンスの関係を示した散布図

(出典)ウェルビーイングと仕事のパフォーマンスにおける相関 - 株式会社アドバンテッジリスクマネジメント


また、以下のような側面からも、従業員のメンタルヘルスを維持することが重要であると分かります。

(1)生産性の向上

ストレスや不安を抱える従業員は、仕事に集中できず、業務に関わるミスを起こす可能性が高くなります。それに対してメンタルヘルスが良好な従業員は、仕事に取り組む意欲が高く、より生産的で効率的な仕事ぶりを発揮します。

(2)離職率の低下

ストレスや不安を抱える従業員は心身ともに疲弊し、その解決策として離職を選択することがあります。一方でメンタルヘルスが良好な従業員は企業に対する貢献意識が高く、長期的なキャリアを構築できます。

(3)健康保険料の負担軽減

うつ病などの精神疾患により治療や休職が必要となった場合、健康保険制度を利用することがあります。精神疾患を有する外来患者数は増加しており、傷病手当金の支給件数がもっとも多いのは、精神及び行動の障害となっています。
メンタルヘルスが良好な従業員が増えると、健康保険制度を利用する頻度が低くなるため、企業や従業員などが負担する健康保険料の軽減も期待できます。

(4)従業員満足度の向上

企業が従業員のメンタルヘルスを考慮して施策に取り組むことで、従業員の会社に対する満足度が高くなり、well-beingな職場環境を整備できます。

精神疾患を有する総患者数の推移

(出典)第13回 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会 参考資料 - 厚生労働省(p.2)


傷病手当金支給件数の構成割合

(出典)令和3年度 全国健康保険協会管掌健康保険現金給付受給者状況調査報告 - 全国健康保険協会より作成


以上のように、従業員のメンタルヘルス維持は企業の発展に欠かせない要素であり、さまざまな施策への取り組みが求められます。

従業員のメンタルヘルスを意識すべき時期

企業が従業員のメンタルヘルスを特に意識すべき時期を考えてみましょう。

(1)年度末や期末などの繁忙期

業務が忙しくなると、従業員はストレスや不安を感じやすくなります。このような時期には、適切な労務管理や役割分担の見直し、生産性向上の取り組みなどを通じた従業員の負担軽減の実現が重要になります。

(2)夏季や年末年始

長期休暇は従業員のリフレッシュ期間となります。夏季や年末年始に休暇を取得し、仕事とプライベートのバランスを取れるような支援が必要です。

(3)新入社員の入社時期

新入社員は、環境変化や仕事への適応のためにストレスを感じることがあります。新入社員の入社時期には十分なサポートを提供し、スムーズな職場適応の支援が重要です。

(4)突発的な出来事が起こった場合

天災や社会情勢の変化などの予期せぬ出来事が起こった場合にも、従業員は不安を感じます。企業は従業員に適切な情報を提供するなど、心理的サポートが欠かせません。

以上のように、時期に応じて従業員のメンタルヘルスを意識することが大切です。適切な支援を提供することで、生産性の向上や離職率の低下などの効果を期待できるでしょう。

従業員のメンタルヘルスを維持するサービス・制度

従業員のメンタルヘルスを維持するサービスや制度には、以下のようなものがあります。

EAP(Employee Assistance Program)

メンタルヘルス不調の従業員を支援するプログラムのことを指し、医師や臨床心理士等の専門家が相談に応じます。相談内容はメンタルヘルス不調についてだけでなく、ハラスメントや身体の不調、家庭環境や経済的不安など多岐にわたります。

ストレスチェック

メンタルヘルス不調の未然防止のため、自分自身のストレス状態の把握が、国が定めるストレスチェック制度の第一の目的です。ストレスチェックの実施から医師面接、集団分析といったサービスを一元的に利用でき、従業員のメンタルヘルス不調を未然に予防するだけでなく、職場環境改善の支援も受けられます。

オンラインカウンセリング

ビデオ会議ツールや電話、メール、チャット機能などを通じて専門家のカウンセリングを提供するもので、24時間利用が可能なサービスもあります。

マインドフルネス

呼吸瞑想などを通じて、ストレスや不安などのマネジメント方法を提供するサービスです。

コーチング

質問や傾聴を通じて気づきを与え、従業員自身が自ら答えを導き出して、目標達成に向かうよう支援するサービスです。

フレックスタイム制度やテレワーク制度

外部のサービスではなく企業が独自に定めるもので、柔軟な労働時間制や働く場所の多様化によって、従業員の働きやすさを向上させる制度です。

これらのサービスや制度は、企業によって提供・導入されるものが異なります。

メンタルヘルスケアサービスを導入するメリットと注意点

メンタルヘルスケアサービスを導入するメリットは以下のとおりです。

メリット

  • 生産性やモチベーションの向上につながる。
  • 従業員がメンタルヘルスに関する問題を抱えた場合、早期発見・早期対応ができるため、長期的な業務への影響を軽減できる。
  • 従業員のストレスや心理的負担を軽減し、健康的な職場環境をつくり出せる。


一方で、以下の点は考慮すべきポイントとして留意しておく必要があります。

  • サービス導入のコストがかかる可能性がある。
  • サービスの内容や情報管理体制などを鑑み、サービス提供事業者を慎重に検討する必要がある。
  • 従業員がサービスの内容を理解できず、サービスの利用が進まないことがある。


従業員は企業にとって大切な資本です。従業員のメンタルヘルスを改善する取り組みをコストではなく投資と考え、従業員が積極的にサービスを利用するよう、継続的に働きかけることが大切です。

メンタルヘルスケアサービスを導入する際のポイント

メンタルヘルスケアサービスを導入する際のポイントは以下のとおりです。

従業員のニーズ把握

従業員が実際に必要としているメンタルヘルスケアの内容や方法を、アンケート調査などで把握しましょう。

サービスのサポート範囲や体制の確認

従業員や企業が求めるサービスを受けられるのかどうか」の確認が大切です。たとえばオンラインカウンセリングサービスでは、「従業員が求める実施方法に対応できるのか」「必要なときにスムーズにサービスを受けられるのか」などが確認ポイントになります。サービスを導入しても実用性がなければ意味がありませんので、サービスを比較検討しましょう。

サービスの質の確認

サービス提供事業者の実績や専門家の在籍状況なども確認し、従業員に対して適切な品質のサービスが提供されるかどうかも確認しましょう。
やみくもにサービスを導入するのではなく、従業員や企業にとって意義のあるサービスを慎重に検討することが大切です。

従業員のメンタルヘルスを維持するためのポイント

最後に、企業が従業員のメンタルヘルス維持のために検討すべきポイントをいくつか挙げてみます。

従業員への研修実施

従業員向けのメンタルヘルスに関する研修を実施し、ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解や対処法を伝えます。自分自身のメンタルヘルス改善に取り組むセルフケア、職場のなかで上司が部下のメンタルヘルス不調に適切に対処するラインケアなどを学ぶことが大切です。

職場環境の整備

職場環境におけるストレス要因の改善に取り組みましょう。ストレス要因の改善について、職場内でのストレス原因を社内アンケートなどで調査し、明らかにするところからスタートしましょう。

組織文化の見直し

恒常的な長時間労働の是正や、ワークライフバランスの改善、ストレスを減らすためのサポートの充実など、これまでの組織文化を見直すことも大切です。

外部のメンタルヘルスサービスの利用だけでなく、職場環境改善や組織文化の見直しといった企業として取り組むべき課題を見つけ、従業員と共によりよい企業づくりに取り組むことも重要です。

おわりに

従業員のメンタルヘルスは、企業の発展に大きく関係しています。
従業員の良好なメンタルヘルス維持が、生産性向上や離職率の低下など企業の業績改善につながり、従業員も企業も多くの恩恵を受けるという好循環が生まれます。
従業員のニーズに即したメンタルヘルスケアサービスの導入だけでなく、職場環境や組織文化といった企業の在り方にも向き合うことで、従業員と企業がともに成長するwell-beingな組織づくりを目指しましょう。


筆者の顔アイコン

【監修】野嶋社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 宮原 麻衣子

2003年、メンタルヘルスの専門家である精神保健福祉士資格を取得し、精神科医療機関等で勤務。2015年に社会保険労務士登録、2017年に特定社会保険労務士となり、労働社会保険関係法に関する専門家として企業の労務管理のコンサルティング業務を担う。また精神保健福祉士養成の専門学校にて後進の育成に携わるほか、労務管理全般やストレスマネジメントに関する研修等において講師を務める。健康経営エキスパートアドバイザー。

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