特集一覧に戻る

健康経営がもたらす中小企業の未来!システム導入の効果と可能性

こんにちは。 社会保険労務士法人名南経営の大津です。

近年、健康経営の取り組みが多くの企業において進められています。

「健康が大事」であることに異論がある方はいないと思います。しかし、健康管理は一人ひとりの個人が意識して進めるものであり、企業が積極的に関わることについて違和感をもつ方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、健康経営の概念を解説したうえで、企業として従業員の健康管理促進の効果や、注目を集める健康経営認定制度などについて解説します。

健康経営とは


健康経営の定義は、NPO法人健康経営研究会が2006年に以下のとおりに定めています。

健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても 大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。従業員の健康管理・健康づくりの推進は、単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要です。従業員の健康管理者は経営者であり、その指導力の下、健康管理を組織戦略に則って展開することが、これからの企業経営にとってますます重要になっていくものと考えられます。

(引用)未来を築く、健康経営 -深化版:これからの健康経営の考え方について - NPO法人健康経営研究会(p.3)

上記のように、健康経営は単なる社員の健康管理ではなく、組織的な促進によって、生産性向上などの経営上の効果を狙うものです。また、その結果として社員の定着や企業イメージ向上にもつながるものとされています。

さらに最近では、人的資本の議論のなかで、従業員の健康も重要な人的資本の構成要素であり、従業員の健康投資を通じて、企業の業績・価値の向上が実現されるとの考え方が強まっています。

(出典)健康経営の推進について - 経済産業省(p.11)

「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」とは


健康経営を考えるにあたって理解しておきたいのが、「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」というキーワードです。

(出典)データヘルス 健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン - 厚生労働省(p.20)

上記の図は、米国のある金融関連企業における従業員の健康関連コストの全体構造を示したものです。ここでは従業員の健康問題によるコストを以下の5つに分類しています。

  • 医療費
  • 長期の障害
  • 短期の障害
  • アブセンティーイズム
  • プレゼンティーイズム

これらのなかであまり馴染みがないのが、「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」という単語ではないでしょうか。これらはWHO(世界保健機関)によって提唱された健康問題に起因したパフォーマンスの損失を表す指標で、それぞれ以下のように定義されています。

  • アブセンティーイズム:健康問題による仕事の欠勤(病欠)
  • プレゼンティーイズム:欠勤には至っておらず勤怠管理上は表に出てこないが、健康問題が理由で生産性が低下している状態

従業員の健康問題に関しては、目に見える医療費の増大やアブセンティーイズム(欠勤)などによる直接的なコストの発生が問題とされる傾向にあります。しかし、上記の図では、プレゼンティーイズムによる間接的な損失がもっとも大きくなっています。

具体的には、生活習慣病やメンタルへルス不調、さらには片頭痛や花粉症などによる「業務効率の低下抑制」が、企業の生産性の向上には不可欠とわかります。体調不良の際に十分にパフォーマンスを発揮できなかった経験を通じて、実感されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そのため健康経営では、「人」を企業・組織における貴重な「資産」と考え、従業員の健康の維持・増進を「人的な資本」に対する積極的な投資として捉えることとなります。

この投資は株価にも影響しており、経済産業省の資料によると、健康経営銘柄2021に選定された企業の株価は、TOPIXを上回る形で推移しています。

(出典)健康経営の推進について - 経済産業省(p.45)

もちろん株価はさまざまな要因も関係するので、健康経営の推進によって株価が上昇するとまでは言い切れませんが、一定の相関関係があると指摘できるでしょう。

健康経営が企業に与える5つのメリット


このように健康経営は、企業のパフォーマンスにも影響を与える重要な取り組みとなりますが、より身近な効果としては以下の改善が期待できます。

メリット(1):従業員の健康促進

企業が実施するさまざまな取り組みによって、従業員の心身の健康状態が高まり、安心感や活力をもって生活できるようになります。また、健康な状態の維持や治療中の病気と共生しながら、⾧くイキイキと活躍できるほか、疾病の早期発見にもつながるでしょう。

メリット(2):生産性の向上

プレゼンティーイズムの改善を通じ、生産性向上も期待できます。

メリット(3):コスト削減

医療費の抑制やアブセンティーイズムによって、コスト削減につながります。

メリット(4):人材の定着促進

以下のグラフにあるように、健康経営を推進している企業では離職率が低く、人材の定着が促進される相関関係が示されています。

(出典)健康経営の推進について - 経済産業省(p.38)

メリット(5):採用力の向上

健康経営を推進している企業は、ウェルビーイングを実現できる企業として求職者に安心感を与えられる可能性が高いため、採用力の向上が期待できます。

「健康経営」を推進する5つのポイント


健康に対する考え方は人それぞれであることから、健康経営を推進しようとしても、全社一丸となった取り組みにつながらないケースも少なくありません。健康経営を価値ある取り組みとして推進するためには、以下のポイントを押さえるようにしましょう。

ポイント(1):経営トップによる健康経営の推進

従業員の健康促進が会社全体における重要テーマであると従業員に認識させましょう。そのためには、経営トップ自らが責任者として率先垂範することが重要になります。近年ではその認識が高まってきており、経営トップが健康経営の最高責任者を担うケースが大半となっています。

(出典)健康経営の推進について - 経済産業省(p.17)

ポイント(2):従業員の参画と意識向上

従業員が積極的に健康経営へ参画できる環境を整え、健康意識向上の促進も重要です。とくに最近は、育児短時間勤務やリモートワークの従業員なども多いことから、働き方が異なる多様性を意識した環境整備が必要となります。

ポイント(3):従業員に寄り添ったプログラムの設計

中小企業の特性や従業員のニーズに合わせた健康プログラムや施策を展開し、効果的な取り組みの継続が欠かせません。現実には他社事例などを参考として、独自プログラムを設計することが多くなります。まずは選択肢を示し、従業員の意見を聞きながら最終決定するとよいでしょう。

ポイント(4):健康データの活用

従業員の健康リスクや傾向を把握するために、健康情報やデータを収集・分析し、個別対応や効果的なプログラムの計画に活かすと効果的です。健康データの分析やプログラムを提供する外部サービスも充実してきています。

ポイント(5):各部門の取り組みなどの情報共有

健康経営実施の初期段階では、健康意識の高い従業員が所属する部門での先行取り組みがポイントになります。先行事例を積極的に社内に発信し、具体的な施策を共有するとともに、健康意識の高揚と取り組みへの参加を促しましょう。

中小企業の健康経営への取り組み方法


大企業で健康経営の取り組みを進める場合には、社内の産業保健スタッフを中心とした企画・運営するケースがあります。しかし、中小企業では専任スタッフがいることは稀であり、総務担当者などが企画を進めることになります。

専任スタッフがいない場合には、経済産業省の「健康経営オフィスレポート」を参考にするとよいでしょう。ここでは、オフィス環境において従業員の健康を保持・増進する行動を大きく7つに分類しています。

  1. 1.快適性を感じる
  2. 2.コミュニケーションする
  3. 3.休憩・気分転換する
  4. 4.体を動かす
  5. 5.適切な食行動をとる
  6. 6.清潔にする
  7. 7.健康意識を高める

(出典)健康経営オフィスレポート - 経済産業省(p.3)

従業員の心身の調和と活力の向上を図るためには、オフィス内でこうした行動の日常的な誘発が重要になります。なお、それぞれの具体的な取り組み内容についてはレポートに記載されていますので、参考にしてください。

まずは上記のような当たり前のことから始めることが重要ですが、専任スタッフがいない中小企業においては、運営が大きな負担となることがよくあります。

健康経営を推進する際には、健康情報のデジタル管理や健康診断・ストレスチェックなどの健康プログラムの実施をサポートするようなオンラインシステムなどを活用するケースが増加しています。

具体的には以下のようなサービスの活用を検討するとよいでしょう。

  • 従業員の健康相談
  • 健康データの一元管理
  • ライフログの計測・管理
  • ストレスチェックの実施
  • 健康診断の予約と管理

健康経営を見据えたシステム導入がもたらす効果


このような健康経営をサポートするシステムの導入により、以下のような効果が期待できます。

効果(1):健康情報の一元管理と効率化

システムの導入により、従業員の健康情報を一元管理し、簡単かつ効率的にアクセスできます。健康診断結果や健康プログラムの参加状況などをリアルタイムに把握し、健康状態のトレンドや変化に合わせた施策を検討できます。

効果(2):データの分析と活用

システムに蓄積されたデータを分析し、従業員の健康リスクや傾向の把握によって、効果的な健康プログラムの計画や個別対応が可能となります。

効果(3):個別対応とカスタマイズ

各種システムにより、従業員の健康ニーズに合わせた個別対応を実施できるのもポイントです。健康プログラムやコンテンツのカスタマイズ、目標設定や進捗管理のサポートなど、従業員の健康促進に特化したサービスを提供できます。

効果(4):効果的なプログラムの実施と評価

システムの活用によって、健康プログラムの計画、実施、評価が容易になります。また、従業員の参加状況やプログラムの効果をリアルタイムにモニタリングし、必要な調整や改善策も実施できます。

効果(5):コミュニケーションと情報共有の強化

従業員間・管理者とのコミュニケーションや、情報共有を強化できます。

具体的には、健康情報の共有やプログラムの案内、参加者間のコミュニティ形成などが円滑に実施できるため、従業員のモチベーションや参加意欲の向上も期待できます。

以下のグラフのとおり、健康経営に積極的な企業では、こうしたシステム、サービスの活用が進んでいます。

※G1(先進企業群):健康経営銘柄、ホワイト500、ブライト500のいずれか取得(1回以上)

※G2(優良法人群):上記のいずれかを取得せず、健康経営優良法人を取得(1回以上)

※G3(未認定企業群):上記のいずれも取得せず

(出典)企業による従業員の健康関連データ利活用の実態調査 - 株式会社NTTデータ経営研究所(p.41)

今後、健康経営を進めていくにあたっては、このような外部機関による健康経営サービスを上手に取り入れていくことが、その成功のポイントとなるでしょう。

健康経営認定制度の申請について


健康経営に対する関心の高まりに合わせ、申請が急増しているのが「健康経営優良法人制度」です。この制度は、経済産業省と日本健康会議が、とくに優良な「健康経営」を実践している大企業や中小企業等の法人を顕彰しています。この認定を受けることで、健康経営の取り組み姿勢をアピールでき、従業員やステークホルダーの信頼向上も期待できます。また学生などの求職者へ、安心して働ける職場であると訴求できることから、年々、申請が増加しています。

(出典)健康・医療新産業協議会第7回健康投資WG - 経済産業省(p.4)

なお、健康経営優良法人2023では、以下の認定が行われています(2023年7月1日現在)。

  • 大規模法人部門:2,668法人(うちホワイト500の認定が495法人)
  • 中小規模法人部門:14,014法人(うちブライト599の認定が499法人)

(出典)健康経営の推進について - 経済産業省(p.12)

システム・サービス導入によって企業競争力向上を目指そう


今回、健康経営に関連する「プレゼンティーイズム」という考え方を取り上げましたが、皆さんの企業の従業員は、本当に能力を100%発揮できているでしょうか?

中小企業における健康経営の促進は、従業員の健康と幸福感を向上させるだけでなく、生産性の向上を通じて、企業競争力を高める取り組みであると定義することが重要です。

人材採用の難易度が高まる環境では、既存従業員の心身ともの健康促進による能力の十分な発揮が不可欠です。

最近は健康経営を推進するためのシステムやサービスも充実してきており、以前よりも少ない費用で導入が可能となっています。企業と従業員の双方にとってよい環境を構築するため、積極的な健康経営の実践が求められます。

筆者の顔アイコン

社会保険労務士法人 名南経営 代表社員 社会保険労務士 大津 章敬

従業員と企業の双方が「この会社で良かった」と思える環境を実現する人事労務コンサルタント。企業の人事制度整備・ワークルール策定など人事労務環境整備が専門。中でも社会保険労務士としての労働関係法令の知識を活かし、労働時間制度など最適な制度設計を実施した上で、それを前提とした人事制度の設計を得意とする。また実務だけではなく、2015年度から3年間、南山大学ビジネス研究科ビジネス専攻(専門職大学院)で講師(人事評価と制度設計)を務める。講演や執筆も積極的に行っており、「中小企業の「人事評価・賃金制度」つくり方・見直し方(日本実業出版社)」など18冊の著書を持つ。

SmartHR Plusでご案内中のアプリ