2023年・勤怠管理の課題とは? 新しい働き方を見据えた効率化のポイントを社労士が解説

こんにちは。社会保険労務士の山口です。すべての企業において、従業員の勤怠管理は必要不可欠な業務です。
給与管理、人事評価など、バックオフィスの他業務にも密接に関わるだけではなく、昨今、ワークライフバランスの重要性や、リスクマネジメント、コンプライアンス管理の観点からも必要性が指摘されるようになってきました。
そのような、勤怠管理業務を日々行うにあたって、「集計作業に時間がかかる」「入力ミスやチェックミスが起きやすい」「法改正への対応がむずかしい」など、お悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。
また、課題を解決しようと、勤怠システムを導入してみたものの、うまく活用しきれず、新たな悩みを生み出している方もいらっしゃるのではないかと思われます。
本記事は、主に勤怠管理システムを導入することのメリットと、勤怠管理システムをさらに活用するポイントについて解説します。
勤怠管理の必要性
勤怠管理の必要性が指摘されるようになった背景には、働き方改革の影響があります。2019年に改正された労働安全衛生法(第66条の8の3)では、従業員の勤怠管理に対し「客観的な方法による労働時間の把握」が義務付けられました。また、改正労働基準法における時間外労働の上限規制は、2020年4月から全面施行されています。
時間外労働の上限規制には、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が設けられましたが、取り締まりが十分になされない状態では、行政運営への信頼が揺らぎかねません。法の確実な履行を確保するという改正趣旨を踏まえ、労働基準監督署も従業員の勤怠管理を重視しているという事情があります。

(出典)時間外労働の上限規制わかりやすい解説 - 厚生労働省
また最近では週休3日制やワーケーションなど「ワークライフバランス」実現のための制度が脚光を浴びています。柔軟性に富んだ働き方に対する社会全体の関心が高まっているといえるでしょう。その一方、日本は欧州諸国と比較し年平均労働時間が長く、時間外労働(週40時間以上)を行う者の構成割合、特に49時間/週以上働いている労働者の割合が高いというデータがあります。

過重労働を抑制し、仕事と家庭生活との両立を目指すためには、正確な勤怠管理が欠かせません。このように、勤怠管理が注目されてきた背景としては、社会的な関心の高まりとリーガルリスクの回避という2つの要因があります。
勤怠管理の方法
勤怠管理には多くの手法があります。昭和の時代から続く手書きの出勤簿やタイムカードによる打刻、エクセルでの集計、クラウド型の勤怠システムの運用などさまざまです。
タイムカード・手作業による勤怠管理の課題
小規模な事業所であれば、紙の出勤簿やタイムカードを利用しているところも多いでしょう。しかし、手作業による勤怠管理には下記のような課題が多くあります。
- 集計作業に工数がかかる
- 入力ミスやチェックミスが起きる
- 割増賃金の計算や法改正への対応が難しい
- 出退勤データを経営改善に活かしづらい
- 従業員による不正記録トラブル
- テレワークによる勤怠管理の複雑化
給与計算業務で特に間違いが多いのは、時間外労働の集計と割増賃金の計算です。月間の時間外労働が60時間を超えた場合、割増率を50%以上とすることが、労働基準法で義務付けられています。
この措置は大企業に先行適用され、中小企業には長らく適用が猶予されていましたが、2023年3月末でいよいよ猶予が終了します。

(出典)2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます - 厚生労働省
4月からの人件費増を抑えるためには、労働時間の現状を正確に把握し、業務の平準化やフローの見直しを図らなければなりません。そのためには手作業による集計ではなく、勤怠管理システムを使用して把握する方が効率的でしょう。
勤怠管理システムによる管理の課題
とはいえ、勤怠管理システムを導入したからといってすべてが解決するわけではありません。システム導入ならではの課題もあります。最も多いのは「システムを使いこなせない」という声です。この問題は、自社の規模や運用に合っていないシステムを導入してしまったときに、顕著となります。
企業の実態に沿わないシステムを入れた結果、担当者レベルでの限定的な利用にとどまり、「システムを有効活用できなかった」「費用対効果が合わなかった」ということになりかねません。また、システムによっては「他のシステム(財務経理など)と連携できない」「必要な項目の紐づけができない」こともあります。
導入前に、「どのような処理のために使いたいのか」「どのような機能が欲しいのか」などシステムに求めるものをはっきりさせたうえで、十分にリサーチすることが重要になります。
- システムを使いこなせていない
- 必要な項目の紐付けができない
- 費用対効果が合わない
- 自社の規模や運用に合わない
- 社内の巻き込みが足りず、担当者レベルでしか利用していない
- 他のシステムと連携ができない
勤怠管理システム導入のメリット
企業の勤怠管理に求められる水準を考慮すると、やはり勤怠システムを利用する方がメリットは大きいといえます。労働安全衛生法で客観的な記録を重視している以上、システム利用はもはや避けて通れないといってもいいでしょう。
割増賃金や労働時間の上限規制などの法改正事項へのスムーズな対応も大きな利点です。特にシステム利用の恩恵を受けるのは、建設業・運送業など時間外労働の削減が喫緊の課題となっている業界です。建設業・運送業については、時間外労働の上限規制が猶予されていますが、猶予措置が終わる2024年までに体制を整えなくてはなりません。
「労働時間とそうでない時間を明確化すること」「長時間労働になりそうな社員を事前に把握すること」「複数拠点の事情をリアルタイムで把握すること」などが必要となりますが、勤怠システムの導入で解決できる部分が大きいといえます。
- コスト削減
- 煩雑な手作業を減らし正確に集計
- 割増賃金も自動計算
- 法改正にもスムーズに対応
- 各種申請のチェックと承認を効率化
- 業務指導や人事戦略にデータ活用
- 給与計算との連携
SmartHRと連携した勤怠管理システムの活用
では、SmartHRを利用する場合、どのように勤怠管理システムを導入して課題を解決することができるのでしょうか。
SmartHRは、勤怠管理システムは自社で提供していないため、他社のシステムと連携して利用する形が前提になります。SmartHRの任意の従業員項目を勤怠システムに連携することで、SmartHRと勤怠システムで共通の項目をデータとして保持することが可能になります。SmartHRで収集した従業員情報を勤怠サービスと連携することで、従業員マスタの二重管理が不要となり、スムーズな勤怠管理フローを実現できます。
SmartHRと連携して利用できる勤怠システムは、出勤・退勤に特化した安価でシンプルなUIのシステムや、業界で多くのシェアを占めるシステム、工数管理まで手が届くリッチなシステムなど、様々なタイプのサービスが揃っています。どの課題をいつまでに解決するかによって、導入するサービスも自然と変わってくると言えます。
おわりに
勤怠管理は企業の労務管理の根幹です。そして正しく勤怠管理を行うためにシステムの導入は不可欠ですが、やみくもに導入することは得策ではありません。それぞれのシステムには、「シフト管理が容易」「自社用にカスタマイズが可能」「フォロー体制が充実している」など、さまざまな特長があります。
まずは自社の勤務形態(固定労働時間、フレックス、裁量労働制など)を確認し、どのような機能・サポートが必要かを明確にしましょう。そのうえで、自社の業種、従業員規模、そして予算に見合うシステムを導入することが大事です。せっかくのシステムが「宝の持ち腐れ」とならないよう、会社全体での有効活用を目指しましょう。