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採用から受け入れまでの業務を効率化!課題とポイントを社労士が解説


こんにちは。社会保険労務士の宮原です。
三寒四温の日々で花粉症に悩まされる人も増え、いよいよ春の訪れを感じる今日この頃です。
春といえば出会いと別れの季節ですが、人事・総務担当者の皆さまにとっては多くの従業員の入退社に対応する繁忙期でもあります。
我が国ではこれまで新卒一括採用が中心でしたが、即戦力重視で中途採用を推進する企業も増え、また労働力不足から採用される労働者も多様化し、人事総務担当者の負担は大きくなっています。
今回は、採用にまつわるさまざまな業務を効率化する方法について解説します。

社員採用から入社までのバックオフィス業務の流れ

企業が従業員を雇用する際、人事・総務担当者はどのような流れで対応を進めるのでしょうか。

1.人材募集

 採用したい人材や採用人数、選考のスケジュールなどが決定したのちに、人材募集を開始します。自社の仕事に興味をもつ求職者を集め、母集団(採用候補者の集団)を形成します。

2.応募者の選考

 選考方法には、書類選考や筆記試験、適正試験、集団面接や個人面接などがあります。採用したい人材を抽出できる方法で選考することが大切です。

3.採用内定

 選考をクリアした求職者に採用内定を通知します。

4.入社手続き

 労働条件を提示し、雇用契約を締結します。給与支払いや保険加入などのために必要な情報を収集し、行政手続きなどをスムーズに実施するための準備を整えます。

5.入社

 新入社員研修や業務説明など、本格的に社内での活動が開始されます。

社員採用から入社までのバックオフィス業務の課題

従業員を新たに採用するにあたり、人事・総務担当者はさまざまな課題を抱えることがあります。

人材募集を開始するための方針や採用日程が定まらない

採用プロセスは、求める人材像を明らかにするところから始まります。しかし、現在在籍している従業員の人事データ(スキルレベルや保有資格、在籍年数や異動履歴など)が集約されていないため、企業の方向性に合わせてどのような人材を補完あるいは強化すべきなのかを検討するのに時間を要することがあります。
また、選考担当者が複数名存在する場合、選考スケジュールを調整するのに時間を要することもあります。

人材募集に関する情報を効率的に収集できない

人材募集の方法はいまや多岐にわたっており、どのような募集方法が効果的なのか、情報を収集して比較検討する必要があります。
しかし、選択肢が多ければ多いほど情報量も多くなり、その精査に時間を要することとなります。

候補者の選考プロセスが複雑で、時間がかかる

求職者が多くなると、必然的に提出書類も多くなります。それらの提出書類を整理し、選考担当者と共有する必要があります。
また選考担当者が複数名存在する場合は、選考の進捗状況などを共有して足並みを揃えなければなりません。選考方法も複数回の面接実施や様々な筆記試験、グループワークの実施など複雑化しており、企業にも求職者にも負担がかかるだけでなく、採否決定までの時間が長くなりがちです。
採否の決定に時間を要すると、貴重な人材が他社に流出してしまいかねません。

採用内定後の入社手続きが煩雑で、負担が大きい

新入社員が1名入社するだけでも、従業員情報の収集に始まり雇用契約の締結や行政手続きの準備、書類作成、必要書類の回収などさまざまな対応が必要になります。春は多くの入社対応を行う時期であるため、内定者それぞれの対応状況も確認しなくてはなりません。また、手続きに必要な情報はマイナンバーをはじめとした機密情報が多く含まれるため、書類の管理にも配慮が必要です。

新入社員の情報やデータが分散しており、管理や活用に手間がかかる

新入社員の情報がバラバラになっていることも、人事・総務担当者の担当者を悩ませる要素になっています。入社年月日や家族情報といった行政手続きや、税関係の対応に必要な情報はもとより、保有資格や職務経歴などの現場の実務にまつわる情報の適切な管理も大切ですが、一部は紙書類、一部はエクセルデータといった形で保管されていることも少なくありません。

課題を解決するためにできること

人材募集を開始するための方針や採用日程をスムーズに決定するための取り組み

自社がどのような人材を何名採用する必要があるのかを検討するために、まずは社内人材のスキルや経験、保有資格などを確認しなければなりません。
各部署がバラバラに保有している従業員情報を一元管理できるシステムを導入することにより、従業員情報を横断的に把握できます。
選考に携わる担当者同士の情報もシステム上で共有することにより、スケジュール調整もスムーズになります。
政府と経済界は企業に対して採用説明会を3回生の3月、選考を4回生の6月から開始するように求めていますが、2023年3月時点ですでに採用内定率は22.6%と報道されています。

(出典)就職プロセス調査 - 就職みらい研究所(p.1)

長期インターン(就業体験)を実施した場合は採用ルールが緩和されることから、同インターンを実施し大学1〜2回生の学生に内定を出す事例もあります。
必要な人材の明確化と選考担当者の情報共有がスピードアップすることは、採用活動において他社を一歩リードすることにつながります。

人材募集に関する情報を効率的に収集するための取り組み

人材募集の手段は多岐にわたりますが、それぞれのメリットを把握するために情報を収集することが大切です。
最近はとくに求人メディアによる求人数の増加が著しく、フリーペーパーのような紙系メディアやウェブ系のメディアが多くの求人をカバーしています。最近耳にすることが多くなった、企業が直接求職者にアプローチするダイレクトリクルーティングも求人メディアによるサービスのひとつとして増加しています。

出典:労働市場における雇用仲介の現状について - 厚生労働省(p.11)


これらの求人メディアは、ダイレクトリクルーティング機能だけでなく、求職者の希望条件に合致する情報をメールマガジンで配信したり、応募者からの問い合わせなどに自動で対応するチャットツールを備えていたりと、さまざまなサービスが提供されています。自社のニーズに合った求人メディアの選定が大切です。
求人メディアは求人情報を求職者に発信するものですが、企業と求職者双方の希望条件を踏まえて仲介してくれるのが職業紹介事業です。企業と求職者の間に立つ仲介者として、面接日程の調整なども企業の代わりに担え、雇用のミスマッチも起こりにくいと考えられています。
最後に、最近注目されているのがリファラル採用です。リファラル採用とは、自社の従業員が求人条件にマッチする知人や友人を会社に紹介する採用手法です。日本では以前から縁故採用という採用手法がありましたが、リファラル採用との大きな違いは、リファラル採用は採用が前提になっておらず、通常の選考プロセスを経て採否が判断されることになります。
労働力不足が叫ばれて久しい社会において、求人メディアや職業紹介事業だけでは人材を確保することが難しくなっており、「人と人のつながり」というもっともアナログに見えるツールが大きな意味をもつようになっています。
採用までのスピード感やコストなどを比較し、人材募集方法を検討しましょう。

複雑で時間がかかりすぎる候補者の選考プロセスを改善するための取り組み

まずは人材募集から採用に至るまでの選考プロセスを簡素化できないか検討しましょう。
たとえば面接ですが、実施方法は個人と集団にわけられ、また一次、二次……と複数回実施されることがあります。
売り手有利といわれる採用市場において、採否の決定までに時間を要すると、優秀な人材を失うことにつながりかねません。
まずはすべての選考プロセスが本当に必要なのかを見極めましょう。
次に、選考に携わる社員が多くなればなるほど意思決定や情報共有が煩雑になるため、担当者を必要最低限まで絞り込むことも大切です。
面接官を務める社員には自社が求める人材像を明確に示し、面接方法についての研修を実施するなど、雇用のミスマッチが起きないような施策が労働力の定着につながります。
また、選考プロセスをシステムで管理することにより、社内担当者だけでなく求職者も選考状況を把握できるようになります。求職者が安心感を得ることは、選ばれる企業となる可能性を高めることにつながります。

煩雑な入社手続きを改善するための取り組み

採用内定が決まると、入社に向けた手続きを進めることとなります。
入社手続きを円滑に進めるために、必要な情報が一元管理できるシステムを利用するとよいでしょう。
従業員情報を従業員自ら入力できるシステムを利用した場合、採用内定者は自身の情報を直観的に入力することができ、提出情報の漏れがなくなります。人事・総務担当者も随時必要情報の収集状況を確認し、提出期限を迎えている情報については、自動的に採用内定者に告知できるようになります。
また、各部署が採用内定者の必要情報にアクセスできることによって、早い段階から採用後の効果的な人材育成計画の立案が可能になります。
入社手続きが簡素化されることで、人事・総務担当者は入社時のオリエンテーションや新入社員研修の充実に時間を割け、新入社員の定着に寄与することでしょう。

分散管理により見つけにくい新入社員の情報やデータ管理を改善するための取り組み

新入社員のみならず、社員の情報をシステムで一元管理することは人事・労務管理の視点からも、また人材育成・活用の視点からも重要です。
とくに新入社員については、管理されている情報を役割や業務内容に応じて分類し、必要な部署や担当者に自動で通知して共有できる仕組みを利用すると便利です。
新入社員にとっても、新入社員を受け入れる部署にとっても安心感があるでしょう。

採用から入社までのプロセスでオンライン化できる業務

人材募集から採用、入社に至る一連の流れにおいて、オンライン化できる業務をご紹介します。

応募書類の提出と確認

求職者は履歴書や職務経歴書をオンライン作成できるシステムを利用でき、また企業はオンラインによる応募書類の提出を可能にできます。
提出された書類をオンライン上で確認でき、大量の紙資料が発生することがなく、書類の整理や保管といった業務も削減できます。

選考プロセスの管理

採用・選考管理システムを利用すると、複数の求人メディアなどに公開している求人情報を一元管理できます。また、求人媒体から応募者の情報を自動で取り込むことで、一括管理が可能になり、システム上で応募者と連絡を取り合えます。
応募者ごとの選考段階や評価内容も一元管理され、よりスムーズに採否を決定できます。

入社手続きの申請と承認

入社手続きで必要な情報をオンラインで採用内定者に通知し、情報を入力してもらうことで申請が完了します。書類の取り揃えや郵送、提出された書類の整理や保管などの業務がなくなり、人事・労務担当者がオンライン上で必要情報を確認し承認することで、採用内定者も「書類を確かに確認してもらった」と安心できます。
入力された情報を給与計算システムと連携させることも可能です。

備品の貸与

社内備品・物品もオンラインで管理できます。業務用のスマートフォンやパソコン、プロジェクターから文房具に至るまで、紙への記入やエクセル入力で貸与状況を管理している企業が多いのではないでしょうか。しかし、ついつい記入や入力を忘れて持ち出してしまい、備品が行方不明になる……というのはよくあることです。
社内のあらゆる場所で発生し得る備品や物品の貸与をオンラインで一元管理することによって、貸与だけでなく返却状況も瞬時に確認できます。
また、以前、災害などが発生した時の安否確認について解説しましたが、企業はBCP(事業継続計画)を策定したうえで、災害などの有事にいかに事業を継続、再開するかを検討する必要があります。日常的な備品などの管理だけでなく防災備蓄品もオンライン上で管理することで、事業継続力が強化されることでしょう。

名刺の発行

新型コロナウイルスの感染拡大からはや3年が経過します。実際に会えない人が増えるなかで、オンライン名刺を作成するシステムも増えています。
また、紙名刺の発注や名刺に記載された情報の更新などもシステム化でき、業務が効率化されます。

新入社員の教育

新入社員教育をオンラインで実施することにより、時間や場所の制約を減少できます。リアルタイム実施の場合は質問も可能ですし、オンデマンドで実施する場合は必要に応じて反復学習も可能です。社会人の基本的なマナーのような研修は、自分のペースで繰り返し練習する機会があるとよいかもしれません。

給与計算

給与計算も、オンラインのシステムを利用すると業務効率化を実現できます。勤怠管理システムとの連携で勤怠情報を取り込め、社会保険料の改定や法改正にも自動で対応してくれます。
また、給与明細をウェブで発行することにより、紙出力や封入、発送といった時間的・金銭的コストが不要となります。従業員もいつでも自身の給与明細を確認できるようになります。
年々複雑化する所得税制に対応した年末調整システムも、従業員と人事労務担当者の負担軽減に寄与します。

新入社員の情報を一元管理するシステムを導入するポイント

新入社員情報の一元管理システムを導入するにあたって、いくつかのポイントがあります。

社内のシステム部門との連携や、外部の専門家を活用

すでに社内において、なんらかの人事労務関連システムが導入されている可能性があります。その場合、既存のシステムとの連携も導入時の検討ポイントになります。また、人事・労務担当者だけでシステム導入を判断するのではなく、社内や社外の専門家と連携し、客観的な意見も踏まえて必要なシステムを検討しましょう。

情報管理方法と管理する内容、必要な機能を整理

既存のシステムだけでなく、現在の情報管理方法を見直し、何が課題でどのような機能があれば業務効率化につながるのかを検討します。やみくもにたくさんのシステムを導入すれば勝手に業務が効率化されるわけではありません。

導入前に社員に十分なトレーニングを実施

業務効率化につながるシステムを導入しても、導入当初は既存の情報管理方法に慣れ親しんでおり、新たなシステムに対する戸惑いや抵抗感は必ず生まれると考える必要があります。システム導入の意図の説明とあわせて、操作方法等について丁寧に指導しましょう。

使いやすさに配慮したデザインを選定

システムを選定する際は、使用する従業員や人事労務担当者がいかに直観的に操作できるかも重要なポイントになります。「入力フォームのレイアウト」や、「項目をどのような順序にすればよいか」「社内の誰もが理解できる項目名はなにか」を整理して、人事・労務担当者だけが使用するのではないという前提でデザインを検討しましょう。

十分なセキュリティ対策を実施

 システムでの情報管理は、必要な情報の集約や紙資料の削減など、業務効率化に大きく寄与します。しかし、紙資料の保管と同様に、システム上の情報も機密性が高いものであり、社員の個人情報や業務上の機密情報などの情報漏えいを防ぐ対策を講じる必要があります。
特定の国や企業などを標的に、端末やサーバーのネットワーク経由で情報を盗んだり、業務を妨げたりするサイバー攻撃は、この10年で29倍に増えたといわれています(警視庁が2022年に国内で検知したサイバー攻撃とみられる不審なアクセスは暫定値で1日あたり7,707件、2012年は269件)。
従業員のITリテラシーを高め、セキュリティ対策の必要性を理解してもらうことも大切なポイントです。

おわりに

大学の新規学卒就職者が3年以内に離職する割合は30%を超えています。
この数字のなかに、少なからず雇用のミスマッチが含まれているとすれば、それは就職者にとっても企業にとっても残念なことです。雇用のミスマッチを少なくするためには、いかに適切な採用活動を行うかが大きなポイントになります。
人材募集の時点から積極的にシステムを導入することで一連の採用行動を効率化し、自社が本当に必要としている人材をスムーズに、適切に採用に結びつけることが可能になります。
優秀な人材確保は待ったなしです。この機会に、採用プロセスの効率化を検討してみてはいかがでしょうか。

(出典)新規学卒就職者の離職状況(平成 31 年3月卒業者) - 厚生労働省(p.3)

筆者の顔アイコン

野嶋社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士 宮原 麻衣子

2003年、メンタルヘルスの専門家である精神保健福祉士資格を取得し、精神科医療機関等で勤務。2015年に社会保険労務士登録、2017年に特定社会保険労務士となり、労働社会保険関係法に関する専門家として企業の労務管理のコンサルティング業務を担う。また精神保健福祉士養成の専門学校にて後進の育成に携わるほか、労務管理全般やストレスマネジメントに関する研修等において講師を務める。健康経営エキスパートアドバイザー。